2007年01月20日

少年よ、恋を抱け

 残暑も終わりきらない九月にマラソン大会だなんて、どうもうちの学校はおかしいとしか思えない。
 マラソン大会があるってことは、大会前の体育の時間が練習にあてられるってこと。
 しかも大会を来週に控えた今日なんかは、実地練習と称して町内のコースを走らされるのだ。九月の半ば、まだまだ暑い。熱中症で倒れたらどうしてくれる。
 もともと長距離が苦手な俺は、校門が見えなくなると早々に足を止めて歩き出した。体育の時間が終わるまでに学校に戻れば問題ないんだ。真面目に走っているのは運動部の部員ばかりで、それ以外のクラスメイトはみんな俺と似たり寄ったりだ。
「あー! 山崎見っけ!」
 背後から聞こえた慣れた声に振り向いた。案の定、吉田がニヤニヤ笑いながら走りよってくる。
「なんだよ、女子も実地練習か」
「うん。本番来週だからねえ」
「お前歩いてないで走れよな、陸上部」
「女子コースに入ったら走るよ。全部なんて走ってらんないよ、あたし短距離なんだから」
 校門を出てしばらくは同じコースを走るが、途中で男女のコースは分かれる。男子コースは5kmあり、女子コースは3kmだ。ずるい。
「陸上部は全員男子コースじゃねえのかよ」
「長距離担当はね。さっちんとか。あたしは関係なし」
「俺も女子コースがいいなあ……」
 ぼやきながらちらっと隣を歩く吉田を盗み見た。夏休みが明けてからなんとなく思っていたことだが、こうしてあらためて隣に立ってみると如実にわかる。
「……なあ。吉田、背のびた?」
「あ、やっぱわかる? なんかねえ、夏休み中に3センチのびたのね」
「で、今何センチあんの?」
「158」
 先週の保健室掃除当番の時にふざけて計った俺の身長は162cmだ。まだ吉田とは4cmの差がある。俺だって成長期だ。またすぐに吉田を引き離すと思いたい。が、実のところ夏休み前から0.5cmしかのびていないという事実がある。
「あ、あれ? なんか冷たくない?」
「え?」
「うわっ、やだ雨だよ! 降ってきた!」
 そういえば昨日見た天気予報では、今日は曇り時々雨だった。40%という微妙な降水確率で、体育が始まる前に降ってくれと願っていたのに降らず、がっかりしていたことを思い出す。
 それが町内コースに出た途端に降り出すとは、なんて間が悪いのか。しかも雨足がどんどん強まってくる。40%の確率とは思えない。学校へ戻るにも距離がある。
「あ、吉田、こっち」
 数メートル先にバス停と屋根のある待合い所を見つけ、吉田を手招きして走った。
「ちょっと雨宿りしよう。そのうち先生が傘持って探しに来るだろ」
「うん。あー、結構濡れちゃったなあ。山崎、タオルとか持ってる? なかったらあたしのハンカチ貸すけど」
「ああ、借り……」
 借りたい、という言葉が思わず止まった。しまった、と思う。
 吉田と並んだ時に気になったのは、実は身長だけじゃない。例えば、久々に近い距離で見る薄いTシャツの肩だとか、髪を束ねてあらわになった首だとか。……胸、だとか。
 そういう気になるポイントが、雨に濡れたせいでいちいち強調されている。
「はい」
「あ、うん。サンキュ」
 差し出されたハンカチをできるだけ自然に受け取った。髪の雨粒を拭いたハンカチからは、シャンプーの香りがしてぎくっとする。体にひっつくTシャツを、気持ち悪そうにつまむ吉田をなるべく見ないようにしながら、ハンカチで少しだけ腕を拭いた。
「お、いたいた! 吉田と山崎!」
 ビニール傘を何本も抱えた体育教師が走りよってくるのが見え、俺は心底ほっとした。
「悪かったなあ。こんなに降るとは思わなくてな。傘貸すから学校戻って着替えなさい。残りは自習、傘は職員玄関の傘立てに返しておいてくれ」
「はーい。あれ、先生1本だけ?」
「他のやつらにも渡さなきゃいけないからな。2人なら1本で充分だろ。風邪ひかないように、早く戻って着替えろよ」
 じゃあな、と先生は慌ただしく駆けだして行く。残された吉田はともかくとして、俺の内心は冗談じゃなかった。
 吉田と相合い傘?
 雨に濡れた状態の吉田と至近距離?
「しょうがないっか。じゃあ山崎」
「俺! 先に戻るから!」
「はい?」
「ハンカチ、洗濯して返すな! じゃ!」
 何言ってるんだという顔の吉田を残し、俺は待合い所を飛び出した。ちょっと山崎、と大声で呼ぶ吉田の声も聞こえないフリで全速力。
 短距離走者の吉田も追いつけないスピードで、俺は学校へと戻るのだった。


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posted by ぺこ at 18:41| メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月16日

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 時折
 世界の広さに立ちすくむ


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posted by ぺこ at 12:49| メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月09日

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 怖いか、と問われたので頷いた。
 指先の震えは止まらない。じわじわと固まる胸元が苦しく、不規則な呼吸を繰り返す。
 背中をなでる暖かい手のひらも、この息苦しさを取り除いてはくれない。
 そんなに怯えなくとも誰もおまえを攻撃しはしないよ。優しい言葉もこの震えを止めてはくれない。

 誰もわたしを蔑まないかもしれない。
 誰もわたしを責めたてないかもしれない。
 わたしは世界の優しさを知っている。
 だけど、何ものもわたしを傷つけない保証などないのだ。
 世界の優しさに手を触れようとしたとき、それがひっくり返って棘に変わらないとも限らない。

 わたしは優しさを与えられるに足る者であるのか。
 共存を許される者であるのか。
 わたしの白旗は人々に正しく伝えられるのかどうか。



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posted by ぺこ at 14:33| メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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